はじめに
公益社団法人酒田青年会議所
第50代 理事長 阿部 喜明
1967年に、当会議所は認証番号342番で承認され、本年度は創立50周年という大きな節目の年を迎えます。先代の理事長と諸先輩の輝かしい歴史と業績に心より敬意を表します。受け継いだ半世紀の歩みをさらに加速させるべく、不確実性の増す社会において、我々JAYCEEが、より明確な目的もって社会の問題に立ち向かっていかなければなりません。
10年、20年後の未来はどのようになっているでしょうか。漫然と迎える未来では、人々が孤独にさいなまれ、慌ただしく仕事に追われ、疎外感を味わい、自己中心主義に毒されます。逆に、主体的に築く未来では、コラボレーションが重要な役割を担い、人々は知恵を働かせてお互いから学習し、優れたアイデアを素早く取り入れていきます。
そのためには、我々JAYCEEが、自分自身の内側と外側を隔てている垣根を取り払う必要があります。JC運動とは、その社会を開発する諸事業の実践過程を通じた自己意識変革運動であり、また同時に社会の開発とは、そこに住む市民の意識の向上にあると考えます。
自分で決断し、選択を行い、その決断と選択の結果を受け止める「覚悟」と、地域社会への「思いやり」をもって、主体的に未来を築いていかなければなりません。
新たな運動指針の策定
当会議所は、創立以来、JC運動の行動綱領として三信条の、個人の修練、社会への奉仕、世界との友情を、50年の運動展開の中で、年を追うごとに具現化してきました。会員は市民社会の一員として市民の共感を集め、明るい豊かな社会に向け努力し続けるとともに、青年会議所の日常活動の場を通じて、会員個々をよりよく開発し続けてきました。
本年度、創立50周年という大きな節目を迎えるにあたり、長きに渡り、その時代のニーズを捉え、地域のために取り組んできた諸先輩の運動を振り返るとともに、さらにこの先10年のために新たな運動指針を策定します。また、そのビジョンを全メンバーで共有し、同時に具現化できる人財育成にも力を注ぎ、次世代へと紡いでいかなければなりません。
より若い視点からのまちづくりへ
2014年度内閣府の調査において、日本の若者は、先進7ヶ国中最も「自国のために役立ちたい」と感じている割合が高い一方で、「自分の参加で社会現象が少し変えられるかもしれない」と考える割合は、7ヶ国中最も低い現状でした。社会に役立ちたいとする若者の意識に応えていくためには、若者が社会に積極的に関わりたいとする態度の醸成に役立つ教育や参加する場が必要です。
グローバリゼーションやIT化の進展、また少子高齢化による人口構成の変化に伴い、これからの未来を担う若者、子供たちを取り巻く社会環境も大きく変化していきます。どんな困難が待ち受けていようとも、「生き抜く力」と「生かされていることへの感謝」が漲る社会に向けて、思い描いた未来を創っていく若者、子どもたちを地域で育てていく必要があります。当会議所がこれまで取り組んできた青少年育成事業の集大成として、それぞれの地域に即した問題に中高生が中心になって取り組み、地域課題を共に考え、その解決ができる人間へと一人ひとりが成長していくために、新たな青少年育成事業を展開します。
また、日常を支えている、学校、保護者、地域、そして行政と連携して、新たなコミュニティを創り出し、社会全体で教育を支えていくことを目指します。活動の多くで、大人が主催している事業を協働で行い、時には他の子どもや大人を巻き込んでいくなど、若者や子どもたちと大人が、共にまちの未来を創るという想いで地域のつながりを生み出します。
会員拡大をJC運動へ
当会議所は2016年度期首会員数が123名となります。近年、多くの仲間を迎え入れ、より魅力ある団体へと成長していくために、青年会議所はメンバー全員で取り組む市民意識変革団体であることを再認識する必要があります。
会員拡大の成功とは何か。1つは「内的組織としての成長」であり、もう1つは「JC運動の社会の評価と結果に基づく共感と共鳴の和の広がり」です。ただ、この両者に共通して言えることは、JCの運動綱領の三信条である、個人の修練、社会への奉仕、世界との友情に唱えられているところのJC哲学であり、最も大切なことは、達成に向けて努力を要する目標を自ら掲げ、自分の能力を自分で高めていこうと意識し続けていくことです。個人参加の参加意識と、その責務と義務が忘れつつある中、本来青年会議所がすべき、学び舎としての日々の研鑽や事業と、仲間とともに自ら協調的に学び合う感情交流、この両輪がいつも互いに相乗し合う運動体を形成していく必要があります。
「内的組織としての成長」と「JC運動の社会の評価と結果に基づく共感と共鳴の和の広がり」が互いに相乗し合う関係を目指し、愛する家族を守るために戦うように、愛する地域を守るために戦うことができる、行動力と和の心を兼ね備えた人財を育成し、会員拡大をJC運動へつなげていきます。
しなやかで強いチーム作り
近年の晩婚・晩産化がもたらす影響として、今後は「育児と介護の同時化」が予想されます。つまり、主力となる働き手の多くが、介護と育児と仕事を両立させざるを得ない時代が確実にやってくるのです。人口構成の変化と長寿化、グローバル規模での競争社会がますます進んでいく中、組織におけるチームや個人の働き方は大きく変わり、チームマネジメントの中に、「ワークライフバランス」という視点を取り入れていくことが求められます。
これまでは、自分の力で最後まで仕事をやり切る人が「責任感がある」と評価されてきました。徹夜をしてでも間に合わせるのが、一種の美徳とされていましたが、そこにお金や体力や人材の「制約」という発想はありません。一方、メンバーが一定の時間制約の中で、お互いに助け合いながら、一人への過度の負担と時間的な制約を意識した「チーム」という働き方があります。人を動かすために何においても必要とされるものは「コミュニケ―ション力」です。人は他人の相談に乗る経験を通じて「自分のチームのメンバーにも、そう言ってあげれば良かった」と気づくことがあります。このように人の心を知る経験が、チームマネジメントを進めていくうえで重要であり、頻繁に質の高いコミュニケーションが、仕事をスピーディーに進め、新しいアイデアを生み、さらにはミスや不祥事の予防にもつながるのです。
ワークライフバランスの視点を入れたチームマネジメントの実践で、「ライフ」の時間を使って自己研鑽に励み、または家事、育児、趣味などから「生活者の視点」を磨かなければなりません。また、その時間がなければ、「ワーク」におけるアイデア、創造性は豊かなものにはなり得ません。時間制約があるからこそ、働き方が変わり、メンバーのモチベーションが高まり、チームの生産性が改善され持続可能な社会へとつながるのです。
共に生きる人たちと喜びを分かち合える酒田まつり
「モノを売る時代」から「コトを売る時代」への転換にあって、まつりにおいても交流を通じて、人と人、文化と文化が出会い、互いに影響し合う中で、各人が自分にふさわしい位置を再認識することが重要視されつつあります。まつりについて論議を重ねると、集客的側面に終始するきらいがありますが、しかし、その地域にあった伝統なり文化を何らかの形でまつりの中に網羅しなければ、市民の本当の意味での満足もなく、永続的な集客にも至らなくなってきているというのが事実です。
「まつり」の語源は、神様の力に従い奉仕する「まつらふ」という言葉に由来すると言われており、神様をおもてなしして日頃の天地大自然の恵みに感謝し、また、人々はまつりに参加することで、共に生きる人たちと喜びを分かち合ってきました。酒田まつりは、江戸時代から続くまつりで、古くは山王まつりと呼ばれ、明治末の電線設置までの間、山のない平野部では、神様が宿るとされている山を模した背の高い山車が、地域単位で練り歩くことで有名でした。
当会議所は、1996年に山鉾が復活を遂げ、2008年には103年の時を超えて高さ20mの立て山鉾が復活し、その後は巡行ルート上の問題で完全なる巡行が叶わずにいました。さらに、2013年には、若者を対象に酒田まつりの企画、運営に携わる体験を通じて、まちの歴史や伝統を学び、まちの未来を自らの言葉で語ることができる人財育成を目的とした事業にも取り組んできました。
今、第一に取り組まなければならないのは、基本構造に帰ることであり、当会議所として、まつり事業の中心たる芯を、立て山鉾を中心とした「伝統文化の継承」に置き、そこを起点に「市民参加の拡大」と「賑わいの創出」という回転運動を生じさせ、直線とは違う終わりのない酒田まつりを描いていく必要があります。
今こそ酒田まつりのあるべき姿を問い、根幹を踏み外すことなく、地域に潤いと心の豊かさをもたらすことが必要です。
民間主導でまちを変えていく
「まちとは何か」。私たちはなぜ、商店街に感じる「まちらしさ」をショッピングモールには感じないのか。おそらくそこに欠けているのが、「アントレプレナーシップ(起業家精神)」なのではないでしょうか。つまり、自分で事業を起こしていくという人がいて、その想いを活かすことができる空間を、私たちは無意識に「まち」と言っているのです。
しかし今、それをやろうとする人が少なく、2014年7月1日時点での酒田市の事業所数は、5年前の2009年から659カ所9.9%減り、減少率は県内主要6市の中で最も高く、生産活動を含めた産業力が急速に勢いを失っている実態があります。これは行政だけの責任ではなく、このような問題が引き起こされ、放置されてきたのは自立しない民間側にも問題があります。
また、今は昔とは比較にならないほど高度なイノベーションと創造性が必要になります。昔と変わるのは、課題の難易度だけでなく、イノベーションは、コラボレーション的、ソーシャル的性格がきわめて重要で、異なる専門技能や世界観、意見を持つ人たちがアイデアを共有し、自ら実践してそれを体系化し、取り組みの中でさらに実証し、地域へ伝えていくことが重要です。
まちを一つの会社と見立て、自立的な事業手法と高い公共意識を組み合わせ、「稼ぐ」という行動意識と「まちを経営する」という長期的かつ俯瞰的な視点から、民間主導で地域を活性化していきます。
生活者としての視点を活かした減災
現在の防災、減災事情をめぐるさまざまな課題として、東日本大震災を含めた過去の被災体験から、女性や子ども、高齢者等、個別のニーズが必要な層に向けた備えや、防災、減災術はまだまだ不十分です。特に重要だとされている減災がなかなか普及しない理由として、「面倒、災害が起こらなかったら無駄、お金や負担がかかる」という課題が挙げられ、同時に、災害がどこか他人ごとになってしまっていないかということも課題の一つです。
減災という言葉からは、何か非日常で、自分たちからは遠い存在のような印象を受けますが、災害時という特殊な状況に対する備えであっても、生活に必要なことの基本は変わりません。減災は、生死に関わる重要なテーマであるからこそ、取り組む際には、楽しい要素を加え、取り組みのハードルを下げることが重要です。災害時に本当に役に立つ備えをするためにも、減災は日常生活の延長線上にあるべきものと考えます。
住民主体で、生活者としての視点を活かした減災への取り組みから地域コミュニティを再構築し、また、当会議所が災害協定を結んだ団体や、他地域の青年会議所とも互いに連携し、平時より被害を最小限にするための取り組みを行います。
ソーシャルメディアを活用したブランディング
近江商人の「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)は、日本的な商いの美徳として捉えられ、これは社会に貢献する組織、企業は長生きできるという意味で語られ続けています。企業の社会的責任(CSR)が強く叫ばれるようになった昨今、社会で果たした役割や地域貢献を伝えることで、価格よりも信義を大切にする意識の高い市民に評価をして貰えるようになりました。また、ソーシャルメディアの時代になり、市民と交流する姿や、日々、リアルタイムに投稿される内容から、その組織、企業が三方よしの要素を満たしているか窺い知ることができるようになりました。
ソーシャルメディアの拡大は、この点で大きな変化を可能にしました。ソーシャルメディアのもつ情報拡散能力、情報の双方向性という利点は、当会議所メンバーと市民とのコミュニケーションツールとしての役割のみならず、市民からの当会議所の魅力の発信など、ブランディングにも大きく効果を発揮します。
タイムリーな情報発信から、当会議所メンバーと市民にとっての利便性を向上させることで、当会議所への信頼と事業への参加を促進します。共感できる情報の配信に心掛け、価値観を共有しているネットワークによる情報の広がりから、市民だけではなく、その友人を通して地域を超えて広くPRし、社会に貢献できる組織を目指します。
参加型の市民運動にむけて
我々は、明るい豊かな社会を築き上げることを基本理念としていますが、そのためには、多くの市民の力をよせ集め、市民と一緒になって考え行動することが必要であります。
わんぱく相撲やOMOIYARIプロジェクトなど、他の青年会議所やブロック協議会と連携で行われる継続事業は、継続年数が多くなるにつれて、調査→分析→企画→行動→行動→行動というプロセスに陥りがちです。こうしたパターンからは、効果的、効率的、発展的な事業継続は期待できず、事業のマンネリ化とメンバーの意欲の減退といった傾向を創り上げていきます。まちの楽しさや喜びを市民と共に創り上げていこうとする、その根本がこのような状態で、どうして明るい豊かな社会が実現するのでしょうか。
継続事業を常に着実に、かつ清新に展開するためには、その事業が歩んできた長いプロセスを評価し、反省し、不足しているものを補い、新しい発想を加え、次なるステージへと押し進めていかなければなりません。
結びに
今後、最も恐るべきことは、不確実性の増す社会を前にした時、人々が問題から目を背け、何もせずに未来を迎えることです。しかし、このような時だからこそ、時代の変化に先んじて自ら変わり続けていくこと、さらには自らが変化を生み出すことこそが、不確実性の高い時代に求められる姿勢です。
我々JAYCEEが一歩を踏み出し、知性と知識を増幅し、意欲を高め、その活動の中で社会との連帯感を高め、互いの価値観を尊重する中で「未来はいくらでも自分の手で生み出すことができる」という自信を、休むことなく生み続けていかなければなりません。
我々一人ひとりの「覚悟」と「思いやり」ある行動が、人々が生き生きと働き住み暮らせるつながりを生み、地域を活気づけ、後世に残したいと思えるような未来を築き上げます。
JCが、地域社会に影響を与えることの一つの形だと考えるなら
自ら影響されてもかまわない場合しか、地域社会に影響を与えられない。