2011年度 第46代 理事長 所信

社団法人 酒田青年会議所
第46代 理事長 白旗 夏生


『 はじめに 』


 未曾有の大災害、東日本大震災。
起きてしまった事、過去の事と割り切って考えるには、余りにも凄まじい大災害。
メディアを通して報道される、建物や車を飲み込みながら、街を更地にしていく津波の映像、その後の原子力発電所建屋の爆発事故など、酒田という直接被害のほとんどなかった地に住んでいても、震災直後私は絶望感と空虚感に苛まれていました。なぜならば多くの尊い命が失われた事、そして東北は経済的に終わりだ、今後我々の住んでいる東北はどうなってしまうのだろう、という空気が漂っていたからです。

 しかしながら、その後の被災地での救助活動、全国からの被災地への物的支援やボランティア活動などの報道を見て、私自身勇気づけられました。そして(公社)日本青年会議所の主導で、迅速な被災地支援ネットワークが構築されるのを、実際に目の当りにして気付かされました。
我々青年がここで立ち止まっていたら絶対に駄目なのだと。

 戦後の焼け野原からの復興という国難に立ち向かった先輩青年、さらには酒田大火の後に酒田(まち)の再建こそが自分達の使命だと、困難に立ち向かった(社)酒田青年会議所の諸先輩。いつの時代でもその時代の青年が現実から目を逸らすことなく、前に進んできたおかげで今の我々がいます。今こそ我々地域を担う青年が力を発揮し、今まで以上に酒田の事を、東北の事を、さらには日本の事を考えて行動していく時です。

前へ進もう! 東北 ( くに ) のために ! 酒田 ( まち ) のために !

誇りに思えるまちにする為に

酒田まつりは、400年を超える歴史を持つまつりです。我々酒田青年会議所も、3年前に創始400周年のまつりを終え、500年目へ繋がるまつりを意識して活動しています。まつりというと目新しいもの、目立つ事をやればいいと考えがちです。しかし歴史と伝統を無視してまつりをしても、本当に盛り上がるわけがありません。酒田市民が誇りに思える酒田まつりとは、400年続いた歴史と伝統を強いバックボーンと捉えて、変えていい事変えてはいけない事を、取捨選択しながら創りあげていくものだと考えています。

 酒田大火の後から市民のまつりにしようという事で、酒田まつりと名前を改めました。名称を変えた時の本懐を遂げる為にも、酒田市民から愛され、誇りに思える酒田まつりを展開していきたいと思います。
 歴史と伝統と繰り返して書きましたが、酒田の歴史と伝統を学べる場所・機会がほとんどない事も事実です。2011年の北前船シンポジウムで酒田青年会議所として、酒田商業高校跡地に「酒田歴史資料館」の建設を提案しました。2012年はその計画を、より具体的にしていきます。酒田の成り立ちから一番栄えた江戸・明治時代、そして現代へと続く創作ではない壮大なストーリー。ただ歴史の事実を並べるようなものではなく、心に響くような物語を体験出来る場所。人間の心を動かすには、やはり物語が必要です。酒田に住む人々が酒田の事を誇りに思えるように、より一層酒田への愛着が湧くような施設を、提案していきます。

 我々酒田青年会議所は近年、山鉾を中心に考えて酒田まつりに参加してきました。しかし、山鉾だけが酒田まつりではないし、酒田まつりだけがまちづくりの対象でない事は、理解しています。
 酒田というまちには、長い歴史の中で洗練されてきた様々な「たから」があります。それを画一的に単独で捉えていくのではなく、線で繋ぎ面に、そして立体的にしていくようなまちづくりを目指します。


地域を担う青年経済人の育成

 今、地域でこそ有能な人材が必要とされています。
有能な人とはどのような人を指すのでしょうか?
リーダーシップのある人でしょうか?話の上手な人でしょうか?コミュニケーション能力の高い人でしょうか?
 そのどれもが必要な要素ではありますが、必須な要素ではないように思います。私の考える有能な人の、最も必須な要素の一つは「自分の与えられている権限の中で一生懸命頑張れる事」だと思います。
 例えば会社でいえば、新入社員と社長に与えられている権限は、天と地ほどの差があります。その差を嘆いて、与えられた権限を活用出来ない人は、仕事も任せられないし、権限も広がりません。有能な新入社員はその権限をフル活用して、上司や同僚からの信頼を得て、さらに自分の権限を広げていきます。
 会社でもJC活動でも、自分の与えられている役職、立場、人材の中で何が出来るか、どれなら可能か、常に考えていくべきです。そうしていく中で、物事に対する理解力、判断力、人の動かし方などを、身に付けていくべきです。それが所謂、人としての「器」になっていくのだと思います。

 我々青年会議所メンバーは、会社の後継者の多い団体です。会社に入った時から、役員に任命される事も、少なくないと思います。大きな権限を与えられていても、人としての「器」が小さかったら、権限も小さいのと同じ事です。JC活動を大いに活用して、可能な限り、人としての「器」を大きくしていきましょう。それこそがメンバーを輩出頂いている企業様が望んでいる事であり、地域を担う青年経済人に求められている事です。


生まれたまちを誇りに思える人間に

 最近の子供たちを見ていると、自分達の生まれたまち、国の事をどれだけ誇りに思っているのかと不安になる時があります。
「 日本に生まれてよかった 」と思っている子供たちは、確かに多いと思います。日本は平和で、経済的に豊かな国です。情勢的に不安な国や、貧富の差が激しい国に比べたら、日本はとても住みよい国でしょう。
「 日本に生まれた事に誇りを持つ 」と思っている子供たちは、どのくらいいるでしょう?明らかに少ない数になると思います。
生まれた国に誇りを持てない個人ばかりになったら、明らかにその国は崩壊へ向かうでしょう。
「 個人の自立性と社会の公共性が生き生きと協和する確かな時代 」こそが、我々青年会議所が目指す「 明るい豊かな社会 」です。
社会の公共性とは、自立した個人によって確立されるべきものです。そして生まれた国を愛し、まちを愛し、誇りに思う事、所謂国と郷土への帰属意識こそが個人の公共心を養うことに繋がります。一方、国や郷土への帰属意識のない個人主義は、やがて自立していない、ただの利己主義へと変わってしまいます。
 我々の後に続き、まだ見ぬ未来を切り開く子供たちの為に、この国と自分の生まれたまちを誇りに思える人間になれる青少年事業を展開していきます。


地域に必要とされるJayceeとして

 (社)酒田青年会議所が、地域から必要とされ続け、さらに発展していくためには、会員拡大運動は必要不可欠なことであります。 近年、金融問題を発端とした経済不況の影響、また東日本大震災により、JC活動そのものに時間的・金銭的に割かれることが厳しいという声を多く聞きます。また職場や家族の理解を得られないという声も多く聞きます。しかし、そんな時代だからこそ、私たちメンバーひとりひとりは、自分の経験から得られるJCの魅力や価値を再認識し、使命感を持って共通の理念のために行動し続けることが大切なのではないでしょうか。

 青年会議所は人の集まりです。そして人の集まりが組織であるのなら、人の力が強化されれば組織は強化されるはずです。Jayceeとしての誇りを持ち、理念を共有し、本気で行動する人が多くなれば組織力は高まります。その組織力の高まりは、私たち個々を、そして私たちの活動をより魅力的にし、自然と人が引きつけられ、私たちの運動が地域に対してより説得力を増すことに繋がるのです。人は人から影響を強く受け磨かれます。その磨き合う力同士が大きければ大きいほど、私たちの輝きも増し続けるのです。私たちメンバーひとりひとりがJCに魅力と可能性を感じ、メンバーひとりひとりが光り輝き魅力的であれば、人が集まり、魅力的な人が集まるJCは、地域から必要とされ続けるのです。

 しかし、活動する地域への広報も疎かにしてはなりません。自らが汗をかき、仲間と考えて一生懸命に成し遂げた事業であればあるほど、その感謝は我々の内側に向かいがちです。地域の人々の理解や、活動できるしっかりとした土壌があるからこそ、我々の活動が可能である事を忘れてはいけません。地域とその人々に感謝し、頂いたご意見は真摯に受け止め、我々の活動の指針の糧としていく。そういうJCにする為に、我々はその活動・運動を地域に向かって、まだ見ぬ新しい仲間へと向けて、情報発信し続けていく必要があります。 そして、これから新しく迎え入れる仲間に対しては、JC活動で経験する様々な機会の中で、自分自身と向き合い己の弱さや至らなさ、そして価値を知ることで成長をし、人生の目的に近づくことができることを、語りかけていきたいと考えています。


結果を出せる組織になるために

 2008年12月から公益法人制度改革の新制度が施行され、2013年11月を期限として、公益社団法人か一般社団法人のどちらかを選択しなければならない状況になって数年が経ちます。(公社)日本青年会議所がいち早く公益法人へ移行した事により、全国的にも公益法人移行への機運は高まりました。酒田青年会議所も公益法人格取得のセミナーに参加し、内部勉強会を開催し、LOM体質と照らし合わせながら公益性を検証した結果、公益法人移行への組織改革が当然との結論に達しました。

 本来、青年会議所の存在自体は公益法人格を掲げられるにふさわしい団体であると考えています。酒田青年会議所においても、先に述べさせていただいたように、地域に根を張り運動しております。この歴然とした事実をしっかりと踏まえれば、当然それに値する団体であることに間違いはありません。だからこそ、この新公益法人制度改革に真正面から取り組み、選択というよりも組織改革への挑戦であると心して、新公益法人制度改革を最大限に利用し、組織改革を前進させていきます。
 また、我々青年会議所は組織として運動をしていく中で、必ずその事業を行う「 目的 」があります。そしてそれは、青年会議所の崇高なる理念に必ず通ずるものでなければいけません。それはメンバー全員の周知の事実であると思います。
 しかし、目的を見出す時に、ひとつだけ大切にして欲しい事があります。
  それは「素直」な心で事に向き合うことです。
 起因があって結果がある。それは当然の事です。善い起因からは、善い結果しか生まれないはずです。起因は事業や運動を行う上で、動機や目的を考える時に必ず潜在的に芽生える意識であると思います。それに対し、自らと向き合い対話し、素直な状態を創り出しながら、善い起因を自分の中で顕在化させていく事が最も重要であります。素直な状態で、善い起因から善い目的・動機を導き出し、自然と善い結果に繋がっていく。それは波紋のように組織内へと広がり、やがては「 善の循環 」を生み出します。

 (社)酒田青年会議所は「 善 」の心を大切にし、それを循環させる事により、必ずや善い結果を生み出せる事と確信して活動していきます。


青年会議所にしか出来ない被災地支援

  2011年3月11日14時46分。マグニチュード9.0、国内観測史上最大の地震が東北地方を襲いました。 そして、専門家も予想しえないほどの巨大な津波が、愛すべき東北の地を襲いました。
 その瞬間、私も酒田の地で地震の揺れを身体に感じていました。ただただ、自分の家族の事を思うだけで精一杯でした。家族全員の無事が確認できると、ようやく起きた事の大きさを知り、その現実に茫然とするばかりでした。震災から1日、また1日と日が経つにつれ、その恐怖と悲しみは落ち着くどころか、東北の地に次第に大きく深い傷を生みだしていきました。

 震災が起きた直後の事です。私の元に県外に住む友人から、安否確認のメールや電話が入りました。そしてそれは次第に、励ましのメッセージに変わってゆきます。テレビをつければ、被災地へ向けた応援メッセージが流れます。そのメッセージはテレビを見る我々に勇気を与えてくれました。あの時、私は確かに感じました。日本人の優しさと困難に向かった時の団結力を。

 現状の被災地支援は物資も行き届き、着実に前に進んでいます。しかし直接的な物資不足の解消から、被災地への支援意識は日に日に薄れていっているのが、現実かも知れません。こんな時だからこそ、我々は青年会議所のネットワークを生かして、被災地支援をしていかなければならないのではないでしょうか。

「 青年会議所の活動なくして地域の発展なし 」
その言葉を我々の矜持として、被災地支援をしていきます。


終わりに

 私は1975年の昭和50年生まれです。私達の世代が就職する頃には、日本経済のバブルも弾けていて、不況の真っただ中でした。その後の失われた10年を経験し、ITバブルによって多?上向きに感じられた経済状況も、2008年の金融不安による世界的不況で、また先行きの見えない経済状況に立たされました。しかし、その度ごとに責任世代である青年が未来を切り開いてきたからこそ、今があるのだと思います。

 そして2011年3月11日の東日本大震災。
 冒頭で過去と割り切る事は出来ない大災害と申し上げましたが、前向きに今の状況を捉えるとするならば、今の我々青年が乗り越えられる困難だからこそ、運命は我々にそれを与えたのだと思います。
 しかし、運命といえども変える事は出来ます。
 悲観的な後ろ向きの言葉を発して、後ろ向きの行動ばかり取っていても、運命は何も変わりません。
 前向きな言葉を発して、その言葉通りに汗をかいて、それが当たり前になるように行動し、未来を切り開き、運命を変えることに挑んでいきます。

思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。

マザー・テレサ